真っ白な空間で、
〝詩織〟
懐かしい声がした。
それは、とても暖かい、
母の声。
『詩織』
もう一度呼ばれ、私は、声のする方へ振り返る。
そこにはやはり、微笑む母の姿があって、
「お母さん」
私は、母のもとへ走った。
けれどいくら走っても、
「おかぁさんっ」
手は届かない。
顔を歪める私に、母は笑顔のまま言った。
『こっちに来てはダメよ』
〝なんで?〟
私がそう聞くと、
『あなたには、幸せになれる場所があるわ』
どういう、こと?
「お母さんは、幸せになれる場所、ないの?」
『お母さんは、もう、戻れないの。お父さんの所に、行かなきゃ。』
そう言って母は寂しそうに、悲しそうに笑った。
「本当は、お父さんもお母さんも、詩織と一緒に居たいわ」
じゃあ、いればいいじゃない?
私だって、居て欲しい。
「じゃあ、一緒にお家帰ろーーーーー」
そう、言いかけた時だった。
突然、黒い影が母を覆ったかと思うと、
「仲のいい親子だなぁ」
一人の男が、母の首にナイフを突きつけていた。
「虫唾が走る」
男はそう、冷たい顔で言い放った。
「お母さんっ!?」
私は目の前の光景にさらに顔を歪めた。
しかし母は、落ち着いた声で、
『詩織、いきなさい。』
行きなさい、だったのか、生きなさい、だったのかはわからない。
『早く』
「でもお母さんが『早く!!』
母は必死に、私に訴えた。
『走って、振り向いてはダメよ。』
そして、
『お母さん、詩織に会えてよかったわ』
優しい顔で、
『お母さんは、詩織とお父さんのこと、愛してる』
そう、告げたところで、
男はナイフを勢いよく振りかざし、
「お母さんっ!!?」
真っ白な空間は、血色に染まってーーーーー・・・