詩織side



私の中の、


黒い一点。


“光縷”



その名を聞いた瞬間、



一気に身体中の血の気が引いていくのを感じた。



遠い過去の記憶、



けれど、いまでも鮮明に思い出せる、



そしてこれからも、忘れることはないであろう、



残酷な記憶の、中心に立つ彼の名と、それは一致した。



「…どうかしたか?」



目の前の彼は、別人。


あいつとは、全てが異なる。


それは、理解している。


だからギリギリ、体の震えを抑えて、


「…いえ、」



そう、一言返した。


それが精一杯だった。