「そーいやさ、名前なんて言うんだ?」


ーーチーンーー


どっかに出てきそうなありがちな音を鳴らして、エレベーターのドアが開く。


「天野です。」


私はそれだけ名乗る。


「えー苗字だけ?名前は?」


「…詩織です。」


“知ってるクセに”


私ーーー詩織はボソっと付け足す。


「俺なーんも知らないけど?」


彼は私の呟きを綺麗に聞き取って返す。



少し歩いたところで彼は立ち止まり、どこからか取り出したカードでロック解除し、


「さ、入って?」



扉を開けて私を中に入れる。