六月も中旬になり、プール開きが行われると、ますます忙しくなった。

プール水の水質検査のために、私は午前中と午後、一回ずつ試験管を持ってプールサイドに行く。


『失礼しまぁす』

体育教諭に軽く挨拶をして、プールサイドのはしっこにしゃがみこんだ。

プールに手を入れると、思いの外冷たい。

この時間は二年生の男子生徒たちが泳いでいた。

いいなぁ。
気持ち良さそう。
私も泳ぎたいな。

試験管に水を汲みながら、そんなことを考えていると、

『きゃっ!!』

男子生徒たちが、わざと私にプールの水をかけてきた。

『ななちゃん先生、気持ちいいでしょ?』

体育教諭が指導中で気付かないことをいいことに、次々と水飛沫の攻撃を受ける。

『うわ、やめて!冷たい!!』

採水を急いですませると、体育教諭に頭を下げて駆け足で保健室に戻った。

『もう…びしょびしょ…』

天気がいいから、脱いで干したらすぐ乾きそうだけど、着替えがない。

諦めて、濡れた服のまま、作業をしていたら、ノックの音がして、綾部さんと笹井さんが入ってきた。

『ななちゃん先生、患者です』

笹井さんの顔は真っ青だ。

『貧血っぽい…』

そう自己分析する笹井さんを、ベッドに寝かせて、カーテンを閉めると、綾部さんが目を丸くしている。

『ななちゃん先生、服びしょびしょだよ』

『プールの水質検査に行ったらやられた』

『うそー、かわいそう。ジャージ貸してあげるよ』

綾部さんの申し出を、丁重に断る。

『いいよ、いいよ。私がジャージ借りたら、綾部さん体育の時どうするの?』

『今日、ないもん、体育』

綾部さんは、あっけらかんと笑う。

『でも…』

生徒にジャージなんか借りていいのかしら…。
ためらっていると、

『そのままでいると、また男子たちが騒ぐよ。ブラ透けてるもん』

笑いながら言う、綾部さんの言葉に、それはそうかも、と思い直す。

『ごめん…貸してもらってもいい?』

『もちろん!!取ってくるから、待ってて!!』

そう言うや否や、綾部さんは元気よく走って出ていこうとする。

『走らないで』

背中に向かって声をかけたら、早歩きになった。