「なぜ仁科なんだ？」

私はこの状況で泣かないように涙をこらえた。

そして振り返りちゃんと滝野さんを見て答えた。

「離婚したからです。」

「はっ？」

「旧姓に戻ったからです。」

「そうだったのか。結婚していたことを知らなかったから。」

私は決まりが悪かった。

「とにかく中に入って。」

「いいえ。」

私は首を横に振った。

「他を探します。申し訳ありません。」

「どうして？ここじゃダメな理由は？」

「無理です。」

「だからどうして？」

「滝野さんだからです。」

彼は心外だという顔をした。

「僕は公私混同はしない。」

「そういうことではなくて。」

「じゃ、説明してもらおうじゃないか？」

滝野さんは玄関先で腕を組んだ。