「ホセ?起きてるの?」

ある日の夜明け前、隣の部屋から聞こえるすすり泣く声にクラウンは目を覚ました。

___コンコン。

「入るよ?」

「ぐすっ…来るな、誰だよ…」

「私」

部屋の奥から聞こえる弱々しい声。

クラウンは引き寄せられるようにそちらに向かう。


足音を聞きつけてホセは慌てて泣きはらした目を冷やした。

「ホセ?」

「来るな…来るなよ…」

ホセは涙声を抑えようと躍起になった。

氷を目に押し当てて、ごほごほと咳ばらい。

ぜぇぜぇと息苦しさに四苦八苦していると、背中から何かに抱き付かれた。

それはもちろんクラウン。

「今日、アクアの誕生日?」

「…うるさい」

「何で話してくれないの?」

「必要がないからだ。それにお前、俺のこと嫌ってたじゃな「嫌ってない!!」

クラウンは目をうるうるさせる。

ホセは必死に心臓の爆音と涙を抑えていた。

「つらいことを話せとは言わないけど、泣くくらいなら頼ってよ…ホセの意地悪…」

「泣いてなどいない」

「嘘つき」

「…っやめろ!」

クルリと半回転させられたホセは油断していたのも手伝って、クラウンのほうを向いてしまった。

「ほら…泣いてるもの…目、赤い」

「話したら…助けてくれるのか。必要ないんだ。俺に、助けは…」

言ってる側から泣きそうになったホセは噛み切りそうな勢いで唇をかんだ。

「泣いていいのに…顔見ないから。ね、泣いてもいいでしょ?」

「嫌だ。離せ」

「意地っ張りホセ。なんでいっつも独りでいるの?」

「いっつもじゃない。ロランにだっ「私じゃダメ?ねぇ、寂しいよ…」

「安心しろ、じきに寂しくなくなる。俺なんかいてもいなくても同じなんだから」

「同じじゃないもん!!」

むくぅと膨れたクラウンを見て抱きしめたいのを抑えるのでホセは意識が飛びそうだった。

「ぐすん…アクアと何があったの?」

「俺は子供じゃない。人前でシクシク泣いてたまるか。」

「たまる!!ホセの子供らしい時なんてないでしょ…まだ」

「うるさい。なくたっていいだろ、お前に関係ない。あるわけないしな」

「…可愛いホセ見てみたい…」

「おい。にやにやするな気持ちが悪い」

突き放そうとすると逆に抱きしめられた。

「っあ!?お前!!止めろ…」

「覚えてたんだ…良かった!」

一気に力が抜けた。


いつもそうだった。

学習能力が無駄に優れたホセは、行動によって本能が目覚める。

環境に体も心も支配されてしまう。


五年前、初めてクラウンに心を許した時_

三歳の時家族を失った時からずっと塗り固めてきた嘘を真実に変えた時__

我を忘れて泣いた__

いつもクラウンはこうやってホセを抱きしめる。

いつか、力さえ抜け、安心しきってしまうようになった。

二年くらいで忘れるはずがない。

この時だけは、自分をさらけ出せる___


「忘れない…素直になれるんだ。この時だけは」

「話してくれる?」

「…アクアと…別れたんだ」

ホセはすべて話した。アクアのことを、全て。

「…つらかったね…」

「ずるいだろ…そんな風に話さないでくれよ…もう、止めて」

___一生、お前に溺れるんだから。

どうしても体に力が入らない。

ホセは諦めてクラウンに身を任せて意識を飛ばした。