「…よくも…やってくれたなダイア!」

「良いだろ。友達っていって「うるさい!」

噛みつくホセにダイアはくくくと笑った。

「笑い事じゃない!見ろ!ウィングが洗脳されたじゃねえか!」

「…ホセ(呆)」


暗い空間に三人。

互いの顔さえ判別のつきにくいこの暗闇でホセの手がウィングの頭に置かれた。

「ウィング…?」

「…」

心配そうにウィングの顔を覗き込む。

「どうした?具合でも悪いか?」

散々汚いものを見たんだ、無理もないかと囁くホセの瞳に、
暗く影が差していたのは気のせいなのか
助けを求めるように震えていたのは…
気のせい?

「ホセ…もう止めろよ」

「何いってる。無理なんてしてない。
だいたい、全部ばれたんだ。隠してることなんてなにもない」

「…例えばさ、今不安過ぎて震えてることとかかくしてんじゃん」

見て分かるほど激しい震えに襲われているのかあまりに不安げだった。

「…な訳…」

___ポロッ…

「ない…」

「ないてんじゃねえか」

「…生理的な涙を泣いてると定義するなアホ。いつもの事だ」

「寂しかったり悲しい時に涙するのは生理現象なのかよ」

「どちらでもない。俺は今何も思っていない」

「…はぁ…」

口調は冷静なのに震える体、溢れる涙。

玉のように浮き出る汗の量も尋常じゃない。

「償いは終わった訳じゃないんだ」


___これが、こいつの二重人格。

理性的で頭脳を司る天使のホセ。

欲望に忠実な肉体を司る悪魔のホセ。

頭の中で葛藤するはずの二者は強烈な支配によって天使が勝っている。

まさに、羨むべき人格だった。

感情さえもつくり出す天使はそれによって悪魔を騙し、欺く。

自分以外の、誰かの為に。

綺麗。

不気味なほどに綺麗。

欲求を知らない脳は体の悲鳴に気づきもしない。

時には、罰さえ与えて。


他人を思い、自分を卑下する天使。

自分を思い、他人を卑下する悪魔。

平等で、時には悪魔が強くて。

天秤は、自分に有利な方向に傾くはずだったのに。



「…怖くなんてない」

___なぜお前は、自分を殺す?

満たせない欲求は次第にホセを狂わせて行く。

"無意味だ"と感情さえ奪われて。

"罪だ"と呼吸さえもはばかる。

天使があまりにも強くて。

罪を犯せば罪でなくとも
無実より、罰を乞う。

こんな"生物"が、存在するはずじゃなかった。

___何故?

「お前の罪は重すぎる」

自分で紡いだ鎖で自らを狂わせ
嗚呼、許しさえ赦さない。

「いつまで続くんだよ。その償いは」

「一生」

自分を憎まないで。

「何一つ悪いことなんてしてないだろ」

もう、自分を殺すのは止めろ。

「俺は憎き吸血鬼を殺すまでいたぶってるだけだ」

ほら、自分を自分とも思わないから。

「何が憎きだ」

自分だろう?

「だって、嫌いだから」

自分が苦しんでるのに気づかない。

「もう、止めろよ」

ウィングは倒れかかったホセを受け止めるとその背を優しく撫でた。

「お前のこと、俺は好きだから。安心しろ」




「やっと見つけたよ、ホセ」

暗闇の奥の奥で美しい金色(コガネ)の髪がさらりと揺れた。