ラショナリズムシンキングLOVE

「よしよし…いい子いい子」

「ふぎゃぁ…ふぎゃぁ…」

どこか控えめな泣き方に少しホセは不安になったが、スヤスヤ眠ってしまうのでふっといきをはく。

「…ごめんね…」

___君には父はいない…
___なぜなら、俺が殺したから。


いつか伝えなければならない。


それがホセにとっては苦痛だった。


___ブウウン、ブウウン…

冷たく着信を告げる機械に、赤ん坊を抱きながら歩み寄ったホセ。

「はい、何か御用ですか?」

無表情のまま答えるホセ。

その表情は変わらなかった。

「そうですか」


そしてホセは赤ん坊に近づく。

「君には生まれつき祖父母がいない」

___なぜなら、事故で死んだから。


「不幸な子だ」

この子は、一生家族に会えない。

この子は、一生愛されない。

この子の、両親をこの手で…

___コロシタンダ。

今更後悔している自分を冷笑して眠りについた赤ん坊の額を撫でた。

「…可哀想に」

___生まれて何もかも失ったこの子には、もう何も失わせたくない。


そう思ったホセは、その足でハウスマーケット(不動産屋)に向かった。

遺された財産の一部でアパートの一室を借り、何も持たずにそこへ移り住んだ。

夕暮れ時、今日は一生分の感情を味わったとばかりにつかれた、と溜め息を吐くホセ。

「…守ってやらなきゃな」

あまりにこの子は可哀想だった。

アパートの窓から暮れて行く空を見つめ、世界から幼い子の大切な人が消え去った日に、涙を流した。

「可哀想に」

可哀想な赤ん坊。








___俺のせいで。

既に自分を慰める気持ちなんてホセには無かった。