「小さいね。可愛い」

言ってるものの、ホセの瞳は虚ろだった。

まるで、感情をうしなったかのように。

「ダイア、見て、可愛いよ…」

「…うるせえ…」

震えるダイアは、既に狂っていた。

「こんなの要らねえ…ローズは?ローズはどこだよ…」

「…死んだ。ほら」

ホセは赤ん坊を抱いたまま血の気のないローズの腕を振る。

「ね?」

「殺す」

「ダメだよ。せっかくの命だよ」

「うるさい…そいつがいなければ!

ローズは死ななかった!!!」

「…」

ダイアは我を忘れてホセに襲いかかる。


「ダイア、この子を傷つけるな」

「断る!こいつが死ねばローズも生き返るはずだ!」

「無理だよ」

「無理じゃねぇぇぇっっっっ…!」

赤ん坊を庇うように逃げ回る。

部屋をぐるぐると。

「お前も殺す」

ホセは感情もなく思った。

___殺らなきゃ。殺られる。

ゴミ箱に手を突っ込み、注射器を取り出す。

カバーのかかったそれを、じいっと見つめた。

___コレデトドメヲ。

体格さはこの際関係ない。

正確に心臓を一突き。

そして頸動脈を狙う。

ホセは利き手で注射器を持った。




迫ってくる。



別れが。




懐に潜り、胸を、貫く。

「…うっ…」

僅か0.7mmの注射針が致命傷になった。

噴水のごとく血飛沫がとぶ。

間を空けず左耳の下に針を差し、ブチブチと裂いていく。

グロテスクに一気に吹き出す血。

一寸の狂いもなく、急所を貫かれてダイアは息たえた。

赤い雨が降る。

それを赤ん坊に浴びせまいとホセはいそいそと部屋を出た。