◇一週間後◇

「っ…はぁ…痛っ…」

「ローズ!?」

家の床に倒れたローズに軽くパニックになるダイア。

「痛いよっ…はぁ…はぁ…」

「私達は医者を呼んでくる。おとなしく待ってるんだぞ」

「陣痛よ。心配ないわ。ダイア、面倒見てあげてね」

両親共にローズの子にはあまり期待していない。

そのせいか苦しそうなローズにも冷たかった。

「…分かった…」

苦しむローズを抱き抱えローズのベッドへと運ぶ。

苦しそうだった。

痛い、痛いと弱々しく喘ぎながら冷たい汗を流すローズ。

ダイアは歯をくいしばった。

「悪い…何もしてやれなくて…」

一日も二日も痛みが続く事さえあると言う。

そんなことになったらローズは痛みのあまり死んでしまうんじゃないか。

怖かったけど、何もできない。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

「…ローズ…」

手を握ってダイアが目を閉じた時、部屋の入り口から声がした。

「何してる」

すっかり大人びた声は聞きなれたもの。



「ホセ…」

「鎮痛剤でも打ってやれよ。…苦しそうじゃねえか」

そういうホセの手には小さな注射器があった。

「はぁっ…」

「ローズ…どれくらい痛い?」

「あ、はぁっ…体がっ…はぁっ…壊れる…よぉっ…」

ホセが見えているのかいないのか、うわ言のようにうめくローズ。

「…」

「ホセ…?」

針を手に固まったホセをダイアが見つめる。

「早く打てよ」

「…俺が…調合したんだ…だから…危険かも…でも…ここには…これしかなくて…」

自信無さげにうつむくホセ。

「もしかしたら…失敗作かも…しれねえぞ?」

「はぁっ…」

消え入るように囁いたホセの声にローズが重なる。

俺ははぁ、と息を吐いてホセの肩を持った。

「お前を信用するさ宇宙一の天才さん」

この頃既にホセの知能は異常だった。

「うん…」

カバーを外すと慣れた手つきで小瓶の蓋を針で突き破り、中の薬を注射器の中に入れる。

トン、と机で逆さ向きに叩き、量を調整した。

血管にそっと針を刺すと薬を素早く注入する。

___なんでなれてんだよ。

ダイアは疑問を感じたのであった。

「もうすぐ楽になるからな」

トントン、とローズの頭を叩き、ホセは注射器にカバーを付けてゴミ箱にほうりこむ。

「大丈夫…か…?」

「うん…ありがと…ゴホッ」

「…無理するなよ?」

「うん…分かってる…」

「ちょっとでいいから寝とけ」

「そう?」

「ああ」


___なんて子供らしくないんだ

そう嘆くダイア。

知ってか知らずか、ホセは小さくうずくまる。


「ねぇ、ダイア。生まれるの、もうすぐだ」

「えっ!?」

「…オペの必要性は薄いが…安産ではないな。逆子か?」

「は?逆子?」

「頭か足かどっちが上なんだ」

「…頭」

「逆子じゃねえか」

逆子という言葉すら初耳だったダイアは改めてホセの頭の良さと知識量に舌を巻く。

___おかしいんじゃねえのかな…

確かにそこまで頭は良くないけどさ、俺、と自嘲ぎみに笑ったダイア。

___でもさすがに三歳児に負けたのは18の自分としてどうなんだろうか…

「…何ヶ月だ」

「ホセ、それ、どこで知った」

「本」

___もういいや。

溜め息をつきつつ答えるとホセは顔をしかめた。

「ずいぶん早産だな」

「知るか」

冷たく返すと怯えたような返事が帰ってきた。


「…ローズ…死なないで…」

「心配性だな。お前は本当に」

「…ワインをもってこい。湯を沸かせ」

「ああ」

逆らう気力も無くしたダイアは黙ってキッチンへ。

「ローズ…」

完全に足音が消えるとホセは人知れず涙を流した。