桜の花びらが風にふんわりとのって掬惠が持っている周翼のキーパーグローブにそっと静かに落ちた。



涙で滲む瞳でキーパーグローブを見つめる掬惠。




「私よりも大きい手をしていたんだね……」




私の隣にもしも──、今、坂口くんがいていたら、何て言うのかな。




掬惠が静かに目を閉じた。




涙が頬に沿って次々に落ちていく。




『はめてみれば、キーパーグローブ──』と空耳かもしれないけれど、坂口くんの声が私の近くから聞こえてきたような気がした。




はっと目を大きく見開いてゆっくりと周りを見渡す掬惠。




坂口くん──?




掬惠はキーパーグローブに右手を入れた。




「あれっ……?」




中に物がつっかえていて手がうまく入りにくい。




掬惠が取り出すとそれは何だか見覚えのあるルーズリーフが4つ降りになっていた。




坂口くんの宝物──。




くしゃくしゃのあのルーズリーフ。






そっと広げると斜線が入った小さな絵が並んでいる。


・小さな魚




・プリンを逆さまにしたような山の絵



・ボーリング



・映画館




・カラオケ




・飛行機





坂口くんがずっと持っていたルーズリーフ。





「んっ?………、・飛行機の下に新しい絵が追加されている」




私の親指の爪の中に収まるサイズの絵。




そして、どの絵よりも1番筆圧が薄く、線ががたがたしていてぶれている。




きっと、病床で一生懸命に坂口くんがこのルーズリーフに向かって書いていたんだろうなと光景が目に浮かぶ。





「小さな教会の前にウエディングドレス姿の新婦が1人。よく見てみると、左手の薬指に結婚指輪をはめている……。坂口くんの小さな字で短いメッセージも側に、『吉井さん、幸せになってね』」




坂口くん、自分が1番しんどくて辛い時に、どうして人の幸せを願える……余裕があるの──。