自分の体が吉井さんでもうすぐ埋めつくされそうな感じがして、恐くなった。
そんな自分が恐かった。
もし、この先、吉井さんでいっぱいになったら、もう何も手につかなくなるんじゃないかと──。
特に富士登山の山頂で吉井さんを抱き締めた自分の腕や手の感覚がまだしっかりと残っていて、この自分の体が覚えていて、この自分の頭が覚えている。
自分の髪の先まで、今吉井さんでいっぱいで。
前から一度黒い髪を染めてみたいと思っていたけれど、そう、今がその時だと思った。
一度脱色をし、明るめのブラウンの色を入れた。
鏡を見た時、自分でも驚くぐらい見た目の雰囲気や感じが変わったと思った。
脱色をしたことで、髪の先までびっしりと詰まっている自分の中の吉井さんが全て完全にいなくなり。
そして、もう、黒髪だった頃の坂口 周翼はいなくなったとその時確信した。
だけど、今、吉井さんをこうやって目の前にすると──。
自分が髪を染めた意味がなかったかもしれないと思い始める。
瞬時に吉井さんで自分の体の中が埋めつくされてしまった。
あぁー、なんだか悔しいなぁ。
誰が悪いんだ。
吉井さんじゃない。
西島先輩じゃない。
一番悪いのは俺だ──。



