後輩の高谷さんと私の間にちょうどできた誰もいない空間の通り道をぼっーと見ている坂口くん。






坂口くんはうつろな目付きで真っ直ぐ前を見据えてカレーパンだけをひたすらかじっている。







「吉井先輩、私ね、さっき溝口先生から聞いた話なんですけど。今年のサッカー部のメンバーは今一まとまりが悪いから、この夏に全員で富士登山へ行くって言ってましたよー!」









「えっー!本当に……!?」









「確か、部員の誰かの提案で……決まったとか先生がそう言ってました。いったい、誰なんでしょうね、富士登山なんて提案をする人。私、ちょっと信じられないです。先輩は、どう思います?」







──富士登山、もしかして……。






「あはっ、はははっ……ははっ」と高谷さんの質問に笑ってごまかしたが、きっとその提案をしたのは坂口くんだろうとゆっくりと坂口くんの方を向いた。






──プリンを逆さまにしたような山の絵。






山の絵は富士登山。






坂口くんがルーズリーフに描いた絵。






じっと坂口くんの方を見ていると一瞬だけ私に静かな笑顔を見せた。






私は確信をした、やっぱり坂口くんだ──。