「ってことは、違うって……ことか。なーんだ。でもさ、部活中、たまに、集中をしていない坂口を注意したり叱ったりしていたことがあったんだ」






「どうして、坂口くんを?」






「吉井さん、本当に感じていなかった?坂口の視線」






「えっ!?」







──私に送る坂口くんの視線、あまり意識をして考えていなかったように思う。








マネージャーをしている時は物品を運んだり、皆の飲み物を用意したり、記録をとり、そして救急箱の準備にボール拾い、溝口先生との長いミーティング。






本当にやることがいっぱいで他に考える余裕なんて私にはなかった。






「坂口、吉井さんのことばっかりずっと見てるんだよ───」






「私のことばかり………………」






「まるで、段ボールの中に入っている子猫をじっと見つめるような目で見てさ──」





「そっ、それは、たぶん私の顔にもし変な物がついていたら、何か言ってやろうってなんてきっと考えていたんじゃないですか?」






それしか、考えられない。







私の知っている坂口くんは───。







私の顔を見て、“鼻から鼻毛が出ているよ……”なんて平気で言うような人だから。







「元マネージャーの小川も言ってたぞ、絶対に坂口くんは吉井さんのことが好きだって……」







──小川先輩、サッカー部で3年生を送る会をした時、あの時、私に必死に言っていた言葉がよみがえる。






“吉井さん。吉井さーん!……近くを見て。絶対に、早く気づいてね!”







“鈍感、近くを見る、早く気づいて。”






近く、近く、……坂口くんのこと。






まさか………………。







「俺は、マジだと思うんだけど──。坂口の吉井さんに対する気持ち」






「そんな……」






私は、どうしたらいい。




困惑の表情を少し浮かべる菊恵。