それから、1ヶ月が過ぎ、6月の終わり頃。






後輩の高谷が菊恵にある相談を持ちかけてきたのである。






「先輩、絶対に誰にも言わないって、約束をしてくれますか?」







「えっ、……約束って何!?」





──もしかして、マネージャーは仕事がありすぎて、もうやめたいとか言い出すんじゃ……。





「あの、私、サッカー部で……・」






「サッカー部で、もしかして何か辛いことがあったの……?」






「違うんです!」





「じゃあ、なに……?」






「実は、好きな人ができたんです!」






恥ずかしさで顔が真っ赤になる後輩の高谷。






「それで、好きな人って?」







「坂口先輩なんです。ベンチに座っている時とゴールキーパーをしている時のギャップにひかれました」






──坂口先輩って、もしかして私の隣の席にいる坂口くんだよね。






サッカー部の中で顧問の溝口先生が今唯一ゴールキーパーとして認めている人間は坂口くん一人しかいない。





間違いない、あの坂口くんだ。







「へぇー、そうなんだ──」






後輩の高谷さんの前では冷静を一応装おったけれど、内心凄く驚いた。







だって──、坂口くんに今まで一度も浮いた話が無かったから。







一瞬、坂口くんがずっと持っているあのくしゃくしゃのルーズリーフが私の頭の中に浮かんだ。






もしかしたら、これから、坂口くんが描いたあの残りの小さな3つの絵は、後輩の高谷さんと一緒に消していくことになるんだろなー。






後輩の高谷が菊恵の顔をじっと見ている。





「吉井先輩、私のことを応援してくれますか?」






「うん───」








坂口くんのために、そして後輩の高谷さんのことを思って返事をした。