掬恵の顔をじっと見つめたまま無言でお絞りを受け取る周翼。






──今、自分の目の前にこうやって吉井さんがいることも、本当は偶然と奇跡に近いことなのかもしれない……。






掬恵が軽く微笑む。






「お疲れ様。今日の坂口くん、ちょっとかっこ良かったよ……」








ぼっとしていた周翼の耳に掬恵が最後に言った言葉が素通りをして風にそっと消えていく。








「えっ……、なんて……?」






後ろに手を組んだ掬恵がくるんと向きを変えて周翼にアカンベをした。