だから、今朝お母さんに無理を言って慌てて浴衣を着せてもらった。







深い紺色に紫陽花の柄が入っている浴衣、昔母親が使っていたものを借りた。







母親が目を細めながら黄色い帯をしめる。






「掬恵は浴衣を着て、いったい誰と映画を観に行くのかしら?」と私にきいてきた。






「だっ、誰でもいいじゃない……」







なぜか、坂口くんと正直に言えなかった──。







おなじみの二つに分けて密編みの髪型に坂口くんからもらった蝶の髪飾りを付けた。





これでいつもよりも勇気を持って自分なりにオシャレをしているつもりだったし、大満足だった。






しかし、母親の「変!」という大きな声の一言。






ピンを口にくわえ、ささっと浴衣に似合うように掬恵の髪を綺麗にアップし直す掬恵の母親、仕上げに蝶のクリップをちょうど良い位置へ付ける。







最初の髪型から全然変わった。







わっ、今風の髪型。







鏡にうつる自分の姿を眺めて、私の母親は神業の持ち主だと思った。