印鑑、印鑑……、急がなくちゃ。
何が届いたのかな──。
印鑑をギュッと握りしめて玄関に向かう掬恵。
玄関のドアを開けると──。
配達員を装った坂口くんが雨に濡れながら小さな紙包みをグンと私に突き出して立っていた。
制服姿の坂口くん。
本当の配達員の人かと思って……、走って来たのに。
──坂口くん。
「坂口くん、雨に濡れるよっ……」
「うん。……」
「傘は?」
「持って、いない──」
「ずっと、立っていると雨に濡れるから、早く家の中へ入って……」
「うん」と周翼は小さく頷くと掬恵の家の中へ急いで入っていった。



