キッチンのテーブルには美味しそうな朝食が並んでいるのが目につくが、どうも朝から食欲が沸かない掬恵。
出勤前の掬恵の父親は新聞を片手に時計を気にしながら焼きあがったばかりのトーストとホットコーヒーを交互に口に入れている。
掬恵の母親がテーブルの周りを忙しそうにうろうろとしながら「ほらっ、ぼっーとしていないで、早く椅子に座りなさいよ!」と、掬恵に一声をかけた。
下を俯いたまま突っ立っていた掬恵が右手をピンと伸ばして「お母さん……、あの、私にお金と健康保険証をちょうだい」と、おぼつかな口調で母親に催促をした。
突然のことで頭が真っ白になる掬恵の母親。
朝食を食べ続けていた掬恵の父親も思わず手を止めた。
掬恵の母親が小さなため息をつく。
「掬恵、どうしてお金と健康保険証がいるのかをお母さんに詳しく説明をしてちょうだい?」