すると、ゆっくりと振り返った掬恵が周翼の背中にしがみつきそのまま顔を埋めた。
「もう、大丈夫……。でも、坂口くんの背中、少しの間だけでいいから、私に貸して──」
はっ、と息を呑んだ周翼だが無言のまま一度頷く。
足並みを揃えてゆっくりと教室へ向かう掬恵と周翼の姿は、まるで二人でムカデ競争をしているよう。
これまでの人生の中で女の子にしがみつかれたことが全くなかった周翼、実は心臓が破裂しそうなぐらいドキドキしていていた。
一方、掬恵は周翼の背中に顔を当てながら色々と考えごとをしていた──。
──坂口くんの背中は広くて、そして良い匂いがする。
ミント系の香。
男の子の背中って、もっと汗臭いものかと思っていたけれど、ほんとに全然違った──。
どうか……どうか、私が鼻にティッシュを積めている姿が誰にも見られませんように。
鼻からの“ご出産(鼻血)”はもうこりごり。
もう、早く鼻血が止まって欲しい。



