部屋の扉を軽く叩く音。

ガチャリ、ノブを回す音に演奏が中断される。


『そんな演奏で満足できるのか、君は!?』


マルグリットの耳に、ユリウスの怒鳴り声が響く。


『君は、そんな辛気くさい演奏で誰かを感動させられると、思っているのか』

怒号は更に続く。


『弾く覚悟がないなら、演奏家を諦めてしまえ。本気で弾けないなら、楽器を捨ててしまえ』


――痛烈すぎる


マルグリットは怒鳴り声を聞きながら思う。


詩月の声は、反論する言葉1つ聞こえない。


『君は何を恐れているんだ、何に怯えているんだ!?』


『……がわからない』


詩月の頼りない声から戸惑いが伝わる。


「君の演奏からは心が伝わって来ない。思いが伝わって来ない」


ユリウスの怒号だけが響き渡る。