ますます引き離されていくように感じる。


「詩月、1度でも合わせているのか?」

ユリウスがヴァイオリン演奏を休止し、詩月に訊ねる。


「ぶっつけ本番で弾くのか?」

詩月が瞼をぱちと大きくしばたかせる。


「本気か」

詩月は呆れたとでも言うようなユリウスの声を聞いても、平然としている。

郁子は強張り小刻みに震える指を、何度も握りしめては開く。

郁子には波打つ胸の鼓動が、静まるどころか益々激しくなるように思える。


――いつでも弾いていいって、こんな凄い演奏……どう入っていけばいいの?


郁子は呟き、胸の前で十字架を切る。


「緒方、大丈夫か。初めから弾いて」

郁子の耳に、詩月の掠れ気味の声が優しく届く。



――えっ!? 初めから……

郁子はハッと目線を上げ、振り向いた画面にピアノの傍でヴァイオリンを構えた詩月の姿を確認する。