――Ok, Obwohl versteckte Version ist drin……緒方、人使いが荒いんだ。すまないな、じゃあ


郁子の耳元で、電話の切れた無機質な音がする。



――今、たしか隠しバージョンはって言わなかった?……


郁子は考えながら、楽譜を見る。

背筋を伸ばし、思い切り深呼吸して指を構える。
さあ、弾くぞと気合いを入れる。

郁子は楽譜を見つめ、自分の弾く旋律をイメージする。

詩月のヴァイオリンの音色が、宗月たちの演奏を包みこむ。


―――あ……


夏の日射しの中、颯爽と響いた旋律。
優しく暖かなヴァイオリンの調べ。


――あの時よりもずっと、心の奥底へまで染み渡る


郁子は、詩月の演奏がケルントナー通りの動画を観た時よりも、さらに情感豊かになったと思う。


――周桜くんのヴァイオリンは、何処まで上手くなるんだろう