ROSE         ウィーン×横浜

「貢、緊張してきた」

郁子は大画面を見つめながら、胸に手をあて何度も深呼吸する。


貢は大画面をかじりつくように見つめて、詩月たちの演奏を聴いている。


「郁子くん、今日の周桜くんの演奏はいつもと違うね。きっと余裕では弾いていないよ」

郁子はマスターに言われて、身を乗り出して詩月の姿を観る。

眉間に皺を寄せ、宗月たちの音に合わせる真剣な顔。

薄い唇をキュッと噛みしめている。

額から頬にゆっくりと汗が伝っていく。


「親父さんたちの演奏だけの時は、威圧されいてるような感じだったんだ。詩月が弾き始めて曲がマイルドになった」

理久がパソコン画面を見つめたまま、耳を澄ませている。


「郁子くん、よく聴いてごらん。演奏をリードしているのは、周桜くんだ」


郁子は夏の陽射しが照りつける大学の正門、ヴァイオリンを弾く女神像の下。