「詩月の『木枯し』の何処が、あんたに劣るんだ。聴いただろ」


「……君が立ち入ることてはない、ミヒャエル」

詩月は、キュッと胸を押さえ掠れた声で言う。


「何でだよ。お前は、マジで差しで弾かなきゃ納得しないのか」


「そう……だな」

詩月は寂しそうにポツリ呟いて、立ち上がる。


「帰ります。……ヴァイオリンの、レッスンの時間が」

座席に向かう詩月を宗月が、詩月の手を掴み呼び止める。


「明後日のコンサートのヴァイオリニストが急遽、体調不良て入院した。代役を探している」

詩月の瞳が凍りつく。


「代役? 貴方なら幾らも弾いてくれるヴァイオリニストがいるでしょう」


「急過ぎて、完璧に曲を弾ける奏者が見付からない」


「難しい曲での共演なんですか?」