ROSE         ウィーン×横浜

男は、自分の指と目の前のピアニストの指を比べて思う。


――だが「木枯し」だ……紛れもなく、「木枯し」が吹き荒れている。……「ショパンの木枯し」をこれほど色彩鮮やかに弾くピアニストを他に知らない


男は、後部座席で演奏を聴きながら、圧倒的な音色に動悸を抑えることができない。


――これが、彼の演奏なのか?
泣きながら、ショパンを封印していたという詩月か……


男は後ろ姿を睨んだまま、体を強張らせる。


――追いかけてきた、いや此処まで追いついてきた


そう思いながらも、不安が募る。


――果たしてそうか? 追いついているだけか……既に、隣に……いや、追い越されていやしないか


男は演奏を聴きながら、目眩で頭がくらくらしてきそうなのを感じ。机にしがみついた。


「すげぇっ、吹雪いている」