ROSE         ウィーン×横浜

詩月は数曲、気持ち良さそうに弾いて立ち上がった。

ピアノの側で、詩月の演奏を聴いていたビアンカ。


「ありがとう、ビアンカ。割り込みしてすまなかった」


「えっと……リクエストしていい?」


「リクエスト……構わないが、何を」


「木枯し」


「ショパンは得意ではないけれど……OK」

詩月は再度、ピアノの前に座る。

鍵盤を端から端まで、1音も漏らさず鳴らし、狂った音を徹底的に、頭に叩き込む。


荒々しく流れ落ちる16分音符の6連符と、左手の跳躍の連続。

狂ったように吹き荒ぶ風、木々の悲鳴を力強く歌い上げる。

――ショパン「エチュード23番イ短調25ー11「木枯し」


先日、弾いた「木枯らし」よりも激しく情感豊かに奏でる。


――!! 「木枯し」……進化している


ミヒャエルは耳を凝らす。