ROSE         ウィーン×横浜

「詩月は自分を探そうとしているんだろう。周桜Jr.ではない『周桜詩月』を」


「『周桜宗月』――詩月にとって、父親は『周桜宗月』でしかないんだな」


「それほど『周桜宗月』の存在が大きいということだ」


「不器用だな」


「だが……父親への闘争心が、彼を成長させている」


「本気で詩月と父親を対決させたくなるよ」


「その対決、是非とも聴いてみたい」

初老の客はピアノ演奏する詩月を見つめながら、瞳を輝かせる。


「で、宗月のコンサートには彼を誘ったのか?」


「いや、まだ……何だか話し辛くて……俺からチケットをなんて不自然な気がして」


「ん……渡してやろうか」


「いいの?」


「まあな、奴らとは長い付き合いだ」


「頼むよ」

ミヒャエルは言いながら、チケットを1枚、マスターに手渡す。