ROSE         ウィーン×横浜

「嘘……だろう」

ミヒャエルが思わず漏らす。


――あの噂、本当だったのか


「詩月は人前で、ショパンを弾くのを封印したと聞いていた。ピアノをやめようとまでしたらしいがね」


「何でそこまで……」


「偉大なピアニストが親で、同じ道を目指す……常に期待され比較され、詩月はその重圧に耐えきれなかったんだろう。……どうやって克服したのか」

ハインツは更に続ける。


「宗月のショパン、今日のショパンはいつもに増して優しく暖かい。『追いかけてこい、そして追いついてみろ、追い越してみろ』とエールを送っているようだ」


「暢気なものだ。詩月は昨日の『木枯し』周桜宗月に果たし状を突きつけたというのに」


「果たし状か、それも宗月にとっては嬉しいだろうよ」


「余裕?」


「言うな~。君は詩月と親しいのかね」