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合格発表から日は流れ、一新された生徒たちの中に俺も馴染むことが出来た。

高校生活は中学校生活と違い、とても楽しかった。

俺を受け入れてくれるクラスメイトたち。

教室にはいつでも明るい話声が行き交っていた。

リーダーの独裁もない。上履きは綺麗なままだ。蹴られることも、殴られることもない。

ずっと憧れていた友人もそれなりにでき、俺も皆と同じ世界の住人になった。

全てが希望に満ちていて、何不自由などない生活に思えた。

だが一つだけ、俺を落胆させる出来事があった。

_それは、いつもと変わらぬ未来との帰り道の事だった。

「あのさ、高坂茅君って知ってる?ほら、図書委員会の。」

「高坂茅?何年?」

「2年2年。」

俺は知っている先輩の名前をひとりひとり思い出す。

はて、そんな先輩いただろうか。

「ごめん。わからんわ。」

「そっかそっか。」

その時、ふと嫌な予感が走った。

形容しがたい。嫌な予感が。

「私ね、その人の事好きなんだ。すっごく好きなの!!」

未来が照れくさそうに笑った。

なんで。

なんでなんで。

なんでそんな顔で笑うん?

高坂とか言うやつの前でもその笑顔を見せるんか?

俺にだけ、俺にだけ向けていてほしいのに!!

「うん。」

自分でもびっくりするほどそっけない返事をした。

そして顔をそむける。

なんだよ。

こんなことしたって何の意味もないじゃないか。

でも所詮俺はただの仲のいい後輩。

未来の中で俺はその線を越えられないんだろ。

俺がいくらお前を好きでも、

その気持ちは届かないんだろ。

「そんでさ、今年の夏まつりである作戦を考えちゃったんだけど。」

悲しみで震える俺をよそに、未来はその『作戦』を語る。

作戦の内容はこうだ。

_メンバーは未来と高坂と俺、あと藤咲という女子。
 どうやるのかはわからないが、藤咲を孤立させる。
 そして始まる大捜索。
 俺は未来と高坂を残して探しに出る。
 二人きりになったところで告白。

「ね、どう?いい考えでしょ!」

『作戦』を言い終えた未来は可愛らしく俺の背中をたたいた。

「協力してくれる?」

なんでだよ。

なんでそんな、俺が。

お前の事を一番好きなのは俺だ。

気づいてよ、未来。

だけど、

「うん。わかった。」

未来に嫌われてしまうのが何より怖い。

未来が離れてしまうのが何よりつらい。

一緒に居られるだけでこんなにも嬉しいんだ、幸せなんだ。

俺の気持ちは、

もう届かない。