_____夏祭り、本堂まえにて。

人混みが落ち着いた。

意外にも混んでいたのは参道の方だけだったらしい。

俺の脳にお囃子が不愉快に響く。

日はすっかり傾き、静かな闇が俺たちを包んでいた。

「…藤咲。」

見渡しても浮かれたカップルがちらほら居るだけ。

藤咲の姿はない。

三郷は少し残念そうに顔を歪める。

「本堂にも居ないみたいだね。」

唇が痛む。

無意識のうちに唇を噛みしめていたらしい。

まったく、どこにいるんだよ。

藤咲。

俺が次の行動を考えていた時だった。

「ねぇ、」

いつもの明るさとはかけ離れた今までに聞いたことの無いような三郷の声色に緊張が走った。

艶っぽく、大人びた声。

不思議と得る得体のしれない嫌悪感。

俺の手を握る力を強める。

「三郷?」

「こっち、来て。」

竹林の広がる小路の方へ俺の手を引く三郷。

その表情はうかがえない。

俺は三郷にされるがままに歩いた。

そこにお祭りの楽しげな雰囲気は一切ない。

さわさわと風で葉が擦れる音だけが響く。

「おい、どこ行くんだよ。藤咲は」

「お願い。聞いて。」

俺の言葉を遮って、三郷が俺の方を向く。

暗闇の中に三郷の顔が浮かんだ。

その瞬間、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。

雨粒に微かな光が反射して不気味に光る。

その目は真剣そのもので、妖艶だった。

じりじりと距離を詰める三郷。

何も出来ずにただ固まるだけのまぬけな俺。

いや、その迫力にただ怖気ずく。

俺の知ってる三郷じゃない。

違う。お前は誰だ。

うろたえる俺を気にもせずに、三郷がゆっくりと唇を開いた。

微かな吐息さえも痛いほどに刺さる間隔。

「高坂君。私、あなたの事大好き。どの子より、あなたの事を思ってるわ。」