【高坂 茅side】
________放課後、図書室にて


優愛。

俺が名前を呼ぶと嬉しそうに俺に駆け寄る彼女が、大好きだった。

いや、今でも大好きだ。

優愛のことは大切だし、誰にも譲れない。

だが、どうやらそう思っているのは俺の一方的なのかも知れないと最近思い始めた。

少しずつ俺を避けるようになっていった優愛。

その理由はわからない。

だが、目に見える程の溝は俺を焦らせた。

でも俺は無力だった。

優愛が俺のそばに居てくれるのなら、力づくでも抱き留めておきたい。

優愛の心が他の男に奪われてしまうのなら、その男を殴ってでも追い払ってやる。

でも、俺にそんな勇気はない。

いや、嫌われたくないんだ。

大好きだから。

優愛が幸せならそれでいいのかもしれない。

そう思ってしまう自分が情けない。

俺はどうしようもなく自分が惨めになったとき、決まって図書室にいた。

本を捲れば俺より惨めな登場人物がたんといる。

そんな人たちと自分を比べては自己満足。

でもそんなのは一時の気休めで。

パタンと本を閉じて、ふと窓に目をやる。

風に揺れるカーテン。

きらきらと夕日が窓に反射する。

「戸締りしてなかった。」

俺は窓を締め、鍵をかけると本を本棚に戻した。

まだカウンターの中に取り残されたままのバッグと図書室の鍵を拾い上げて、埃っぽい図書室を出ようとした。

_時。

「すいませーん。」

見たこともない女の子がそこに立っていた。

俺の半分ちょっとぐらいの身長に、長い髪を二つに束ねて。

「図書室はもう閉めますよ。」

「あっ、ごめんなさい。でもこれ、期限きれちゃってて。」

そういってサッと俺に文庫本を差し出した。

表紙のおどけた表情の少年と目が合う。

「あ、これ俺も読んだことあるよ。」

「本当ですか!!??面白いですよね!」

主人公が恋をした女の子は兄の彼女で、最後まで恋はかなわずBAD ENDだったかな。

「君、二年でしょ?同い年だし敬語じゃなくていいよ。」

「え、同い年!?見えなーい!」

俺を頭から足まで眺めて目を丸くして驚く。

「あと、どうして同い年ってわかったの!?」

「制服のリボン。学年カラ―じゃん。」

あっ、とリボンに目を落としてはにかむ彼女。

「そうそう。本、俺もらっとくわ。期限は守ってね。」

そう言って受け取った本をカウンターに置いて、彼女と一緒に図書室を出た。

「じゃあ、気を付けて帰れよ。」

「あ、あの!!」

ピシッと背筋を伸ばして俺を見据える。

「ん?」

「名前だけ、教えて!!」

なんだ、そんなこと。

「高坂茅。君は?」

「私は、未来!三郷未来!!よろしくね!」

そう言い残して三郷という少女は颯爽と廊下の奥に消えていった。