「わかった。内緒にする。」
お願いな。と笑う高坂が悲しかった。
高坂にとって私は何でもなくて、
手を握ったのも
やっぱり普通のことなんだ。
嬉しいはずの二人きりの帰り道。
特に会話も盛り上がらず、気づいたら家の前だった。
「ここ、家。」
「あ、じゃあまた明日な。」
「…。」
「…。」
私が背を向けて、家のドアを開ければ終わりなのに
向き合ったまま、沈黙が続く。
「藤咲…?」
「送ってくれてありがとね!これ、要らないかもしれないけど、持ってて。」
そう言って差し出したのは、HR中に書いた自分のメールアドレス。
あの日の優愛みたいに、強引に手に握らせて
逃げるように玄関へ向かった。
「また明日ね!」
彼に背を向けたままそう言うと、私は玄関に入った。
彼に触れられた手首は、いまだに熱を持ってるような。
そんな気がした。