「ランチミーティングの後に、30分抜けてくる」
宣言通り怜士はレストランからの帰り、いつもの所に車で寄り道させた。
「いらっしゃい」
ドアを押すと、店主が怜士の姿を認めて日本語であいさつをした。
この国に来て唯一の気晴らしは、日本語専門の書店に行くことだった。
名前が変わっても、国籍が変わっても、根っこの日本人は変えられない。
サトシ・ダバリードが、日本で長く育ったことをオープンにはしていなかった。
ハーバードの前はスイスのボーディングスクールにいたことになっている。
確かに1年だけはいたのだから、間違いではない。
だが多くの過去は伏せられていた。
今のところ、無闇につつくバカはいない。

