「どうぞ」


窓に向って置かれているソファーに座り、怜士はもう一つのカップを少し持ち上げ、隣に促した。


「うん」


その近い距離に戸惑いながら腰をおろすと、カップを受け取った。


小さな音量でクラシックが流れているのに、耳を傾ける。


「プロコフィエフのシンデレラ?
 今泉も好きなの?」
「たまたま流れているだけ。
 シンデレラ?
 って、あのシンデレラ?」
「バレエのね。
 全曲の中で、このワルツが一番好きかな。
 ちょっと、暗い感じがするけど」
「へえ。
 クラシックなんて、聞くと寝るタイプかと思ってたよ」
「ほんとに、今泉はつくづくと感じが悪いよね。
 まあ、オペラは寝るけど。
 バレエとミュージカルは寝ない」
「ああ、運動の要素があるからね」
「よくわかったねー。
 この間、ロシアのバレエ団のシンデレラを観たけど、良かったなあ。
 舞台装置や衣装なんかがアメリカのギャングエイジの時代設定みたいで、オシャレだった」
「そうか」


柔らかく微笑して見られているのに気が付いて、麗華は視線を外した。