何年かぶりに暗い気持ちで病院を出る。仕事でこんな気持ちになるのは新人以来か。
先輩や同僚、水嶋までも俺だけのミスじゃないと声をかけてくれたが、外科医になってこんなミスは初めてで正直かなりこたえていた。
自分を過信していたせいもあり、ショックはまさに甚大。ガーゼカウントしてたナースは、俺以上にもうこの世の終わりみたいな顔をしていた。

今日の手術で閉腹した後、ガーゼカウントの数が合っていないことが発覚し、まさかと思ってレントゲンを撮ったら、そこにくっきり黒いガーゼの陰影が映し出されていたのだ。

所謂遺残という医療ミスだった。すぐに緊急OPEになり、今閉じたばかりの腹を開腹してガーゼを取り出した。二回立て続けのOPE、それだけ体に術後の侵襲は大きいし、傷の治りが悪くなる上に汚くなってしまう可能性もある。

運良くと言っては失礼だが、患者は60代男性で傷口なんてどうでもいいよ、と言ってくれたのがせめてもの救い。これが嫁入り前の女性だったら裁判沙汰になっていたっておかしくない。

自分のしでかしたミスに青ざめていたところ、ベテランの先輩に肩を叩かれ笑って励ましてくれた。しかし、人の命に関わる仕事というのはこれだから怖い。それを久しぶりに痛感した日だった。

こんなに落ち込んでいる最中にも、容赦なく明日も明後日も予定手術が入っている。年齢的に術者を任されることが多くなってきている中、もっと気を引き締めていかなくちゃいけない。

こんな時、本当に家に誰かいるっていうのが億劫で仕方がない。この日程、一人で静かに過ごしたいと願った日はなかった。

作り笑いができる心境でもなく、仏頂面のまま家へ帰る。すると、予想通りうるさい奴が心配そうに声をかけてきた。

「彰人さん、何かあったの……?」

おかしいな、声をかけるなオーラを発しまくっていたのに。最近やっと、空気が読めるようになってきたと思ったのは、やっぱり間違えだったようだ。