「──ッカットぉッ。一旦休憩」


監督さんの一言で張り詰めた空気が少し緩んだ。

その指示でヘアーリストさんが嫺君と東雲さんの髪を直しに行った。

セットを運ぶのを手伝って荷物持ち。


「嫺君、今度二人で出かけようよ」


「え?」


「や、せっかくの機会だし? 仲良くなりたいからさ〜♪」


「ちょっと待って、予定確認してくる」


か、か、会話を聞いてしまったぁぁぁああ!!!

あれって、デートの誘いじゃないの!?

てか、聞かれちゃっていいの!?

アイドルってそういうのあまりよろしくないんじゃないの!?

気がつくと、アタシはセットをさっさと定位置に置いて、壁に隠れて多田さんと嫺君の会話に耳を澄ませていた。

……ここまできたら、聞いちゃえ。


「多田ちゃん、俺の予定ってどうなってたっけ。オフあった?」


嫺君が多田さんに駆け寄る。


「えーっと、今週の金曜日がオフです。……どうしたんですか?急に」


多田さん、不審に思ってる。

マネージャーの顔が怖いです。

声も少し低いです。


「あ、ああ。東雲さんと出かける」


「えぇっと、嫺君?それって色々あれだよ?」


「変装して行くから」


「あ、はい……気をつけてください」


納得したのか、呆れたのか、嫺君のことを信用したのか。

多田さんは困り笑いをした。

この事が、後で大変なことになるなんて、みんな思ってもみなかった。

もっと、ちゃんと考えていればよかったんだ。