奏ちゃんの黒縁メガネから、大きな涙が流れていた。
「え……と、あの……」
「あ、ごめん。」
「え、あ、いえ。奏太君が謝らないで下さい……」
なんか、アタシ申し訳なくなってきたよ…………
「いや……なんかさ、可哀想で……」
奏ちゃんがこぼれ落ちていた涙を拭いながら、そう言った。
……優しすぎでしょ。
そんな、しんみりした雰囲気を壊す人物が一人────
「じゃあさー!篠原ちゃんは、帰る家なくなっちゃったの?」
蒼峰 嶺。
いるよね……こういうKYな人。
「はぁ……」と、嫺君もため息をついて、呆れている。
「ね!どうなの?!」
一方、この、優しくて元気でKYな人は、足をバタバタさせて、耳と尻尾があったら、犬と言えるほどに、グイグイと嫺君に聞いている。
「……ま、あ、そうなります……かね?」
嶺君の行動に呆れと、驚きをもちながら答えた。
まぁ、どうしても生きていけなさそうになったら、バイトの稼ぎで生きていくことになるんだろうけど。
「え?じゃあ、これからどうすんの?」
キョトンと、首を傾げる嶺君。
「確かに。どうすんだ?帰る所なくなったら、野宿か?」
「いや、それはさすがにないでしょ」
それに、嫺君がボケ、奏ちゃんがツッコむ。
テレビでよく見る光景だ。
こんな状況のそんな三人を見て、アタシは、「あぁ、本物だ……」と、当たり前のことで当たり前じゃないことを呟いた。
…………って、のん気に感心してる場合じゃなくない?


