先ほど丁度ライたちに話した、あの時の……


ポカンと自分を見る景の様子に、水穂は景の考えていることを見透かして頷く


「そう、あの時のです」

「や、やっぱりそうですか?」


景が微かに嬉しそうに驚くと、水穂は微笑んで「あの時はありがとうございました」と礼を言った


「わっ、私は大したことはしてないです!」


本当に景はただ母の言うとおりに、骨折した彼の部屋まで食事を運んで、そして食べるのを手伝っていたただけだ

その役を任されなければ普段通りに食堂での手伝いをすることになっていたわけだから、こちらとしてはむしろ楽しかった記憶が微かに残っている


「いいえ、本当に助かりましたよ。まだ小さいのに、寮を手伝っていて立派だと思っていました」

「そ、うだったんですか……?」

「はい」


最初は、見た感じ少し話しかけにくそうな『カッコイイお兄さん』だったけれど


彼はいつも最後に

「ありがとう」と頭を撫でてくれた


それがなんだかとても、幼い景に満足感や幸福感を与えていたのだ


だから私はこの仕事に魅了されたのかもしれないな