「私.....トイレから出た後に、強風で飛んでいってしまった帽子を追いかけて林の中へ入って.....それから.....あれ?それから.....なんで.....」


市河家の布団の上で目を覚ました麻依がそう証言するのを、景と市河はなるほど、と聞いていた


確かにあのとき、時折強風が吹いていた


それで舞ってしまった帽子が飛んでいった先が、運悪く悪狐のテリトリーだったということだろう


落ちている帽子は、景が拾い

今は麻依の枕元に置いてある


しかし麻依などの関係ない人には決して言ってはならない悪狐の事実


景は何はともあれ麻依が無事目を覚まして良かった、と柔らかく微笑んだ


「きっと人混みや暑さで疲れたんだね」

「うん.....そうかも。心配かけてごめんね、景ちゃん」

「ううん、全然気にしないで!今はゆっくりして」

「だな、小椋はもう少しこの部屋で横になってるといい。景、俺ナオヤたち呼んでくる。あいつらきっと可哀想なくらい心配してるだろーし」

「分かったよ」


市河がそう言って部屋から出て行くと、麻依は柔らかく微笑んで、そしてまた眠ってしまった


なるほど狐というのは、人の体力を吸い取ってしまうのだろうか


景は麻依の胸元までタオルケットをそっと掛け、隣の部屋へ入っていった