景がお手洗いから出ると、麻依はまだそこにはいなかった


1分ほど待ってみたが彼女は出てこない


そんなにお手洗いは混雑していないし、ほとんど同時に入ったのだからもう出ていてもいい頃だ


むしろ景は麻依を待たせているんじゃないかと心配したくらいなのに

もしかして、先に出て戻ってしまったのだろうか



そこまで考えて

なにかふと不安なものが景の心を掠めた


麻依ちゃん......

びゅうっと強い風が吹く


なんだかとても、嫌な予感がするのだ


景はお手洗い裏の人目のつかないところへ行くと、ポンと変化してシベリアンハスキー姿になった


「わん」


嗅覚を使え

麻依ちゃんを探せ


景は鼻を利かしてあたりを飛び回る


麻依の匂いは、後ろの雑木林へと続いていた


こっちに麻依ちゃんが?

なんでこんな木の中に


どうしてだろう

悪い予感しかしないのだ


「わん」


景は黒い瞳で雑木林を見据えると

その小さな足で中へと駆けて行った