遠くから調子のいいお囃子の音が聞こえ、景の頭の中には音符が渦を巻いていた


「ふふふん♪。夏祭りなんて久しぶりだなぁ!あの2人も来れれば楽しかったのにね

あの2人、とは帰省中の咲夜とライのことだ

日向の姉たちとの雑談を終え、景は市河家の玄関で華奢なサンダルを履きながら言った


午後3時

これからとうとう夏祭りへ向かうのだ

「え、いいよ。あの2人までいたらこうしてずっと景ちゃんの横にいることは出来ないし。ね?」


相変わらず女の子に優しい結斗に慣れた景は「あは、それはありがと」と笑った


「まぁ確かにあいつら大好きだからな、景のこと」

棒読みで頷く市河に、「あいつら“も”、ね」と結斗が訂正を入れる

爽馬は相変わらず涼しい顔で、早く行くよ、とこちらを見ていた


「ねぇ爽馬何食べる?そもそも食べる?」

「僕そんな少食に見られてるの?」

景は満面の笑みで「あはっ」と笑うと、爽馬の肩に腕をかけた


「いやですね、爽馬さんはやっぱりトコロテンに心残りがあるんじゃないかなと思いましてですね」

「うわっ、存在忘れてたところてん」

「ところてんにそんな執着心ないって」

「ん〜、またいつか天突き使えるといいね」

「そなんだよねー」

そんな会話をしながら、四人は広々とした石造りの玄関で靴を履き終えた

市河が爽馬の横で「そういえば全ての発端ソレだよなクソ」みたいなことを言っている


「よし、じゃあ行く?」

「だね、案内よろしく日向」


なんだかんだいってまだ高校生

景たちに楽しそうな顔を向けられて、市河もつられてふわりと笑う


「おお、行くか」

そう言って、市河は玄関の扉に手をかけた