そういえば何だかんだいって、景の母親、京子には会ったことがなかった


なるほど

この人が......景の......


「......どうも」

ライは寝ていたからか少し痛む頭を押さえながら、のっそりと起き上がった


「あ、ごめんなさいね、お昼寝を邪魔しちゃって」


「いや......」


「何度か男子寮Bの周りであなたを見かけたから、すぐに分かって声かけてしまったの」


申し訳なさそうに笑う京子の手には、小さなジョウロ

辺りには、可愛らしい花々


「ここの花に、水あげてるんですか」

「そうなの、可愛い花たちでしょ?」



そう言ってジョウロを軽く掲げる京子を、ライはこれも寮母の仕事の一環なのかと思いながら見る


彼女の笑顔が景に重なって、あぁ親子だな、なんて思っていると、京子が思い出したように口を開いた


「そういえば、先月くらい?おたく(男子寮B)、女子寮に乗り込んできたみたいねぇ」


「あ」

「あ。......ふふふ、あ、じゃないわよぉ、娘のためだったなんて知ったから怒るに怒りきれないんだから。でも、もうああいうことはしないように」


まったくもう、と笑う京子は、とても嬉しそうだ

「でもね、あなたたちが大雨の日に私に繋げてくれた電話が、とても嬉しかったのよ、ありがとうね」


そう言って京子は軽くお辞儀をした


大雨の日

景がついマナに怒ったとき、そのやり取りを女子寮の寮母に聞いて欲しくて、電話を繋いだ

結斗の思いつきで



「......俺はなんも」

「ううん、景が強い気持ちで寮母をやってるんだなぁとか、成長したなぁとかももちろんあるけど

あなたたちがこんなにも景の事を信じてくれてるんだなぁと思って、とても感動したの。

だからもう一度、景が男子寮Bの寮母をやれないか、頼み込んで見たのよ。ちょっと大変だったけどね」

「そう......でしたか」

「ええ」


京子は話しながらライの横に腰掛けた


「あの子、皆さんには自分がシベリアンハスキーちゃんだって伝えてるんですってね」