「爽馬......」


少なくとも爽馬は学校を出たくないと思っているということだろう


咲夜は少し安心し、冷静になった


「きつく言って悪かった。教室に戻ろう」


そう言いながら爽馬の方に向かって歩くが、当の爽馬は足を動かさない


そして、自分の横を通り越す咲夜に向かって、口を開いた


「今の話、なかったことにしてもらえるかな」


「......は?」


「小高家のこの問題は、簡単なことじゃない。今は見て見ぬ振りをしておいて欲しい」


咲夜は黙って、ただただ爽馬を見ていた


確かに、人の家の事情に他者が介入するのは良くない


きっと、自分が言ったってどうにもならない事情が爽馬にはある


どうして学校を出なくてはならないのか

出て行った兄弟は何をしてるのか


聞きたいことはいろいろ有る


しかし現に偉そうに聞いたり言ったところで、じゃあ俺に何ができるかと問えば


何もできることなどないのだ



「分かったよ」

咲夜は言った


「だけどな、お前はきっと苦しくても助けを求めない。でも、俺は溺れかけてる奴にはお節介でも手を差し伸べる主義なんだよ。

だから、何かあったらその約束は破らせてもらう」



見捨てることが出来ないくらいには、俺らは仲良くなっただろ?


爽馬は真剣な顔の咲夜をじっと見ていたが、やがて儚げに笑った


「本当、お節介だね。でも、咲夜と同じ寮でよかったよ」

「......え......」


咲夜は目をシパシパと瞬かせる


「......お前............ふっ、まったく......」

「何?そんな嬉しそうな顔しないでよね。気持ち悪いから」


そう言って歩き出す爽馬に、咲夜は一発小突きながら


彼の横を歩き出した