「や、やだ、もう無理......」


「文句言うな」


「だ......だってぇ......」


「この様子じゃ、今夜は寝れそうにないな」



「いじわる......こんなの......

絶対できないんだけどーーっ!?」



夜の10時

男子寮Bのリビングにて

景の叫び声が響く


「意味がわからない。なんでタンジェント90度足すθはマイナスタンジェントθ分の1なの呪文なの」


「理屈じゃねぇ暗記しろ」


「無理無理暗記したところで使えないもん」


「お前は脳みそまで犬レベルが」


「ただの三角比だよ。どこが分からないの」


「爽馬まで!全部分からないの!数学は無理。絶対無理」


「まぁまぁ落ち着けって」


「そんな景ちゃんも可愛いけどね」


あれから一時間が経ち

四人は共に勉強していた



この雨の中また戻ってくるのが危険だと判断した景の母が、電話越しに


《電話越しに聞いてて、貴女の寮母に対する熱意はよく分かったわ。とりあえず今日は危ないからそのまま男子寮Bに泊まりなさい。どうせ明日は土曜日なんだし》


と言ったからだ


「まってママ、私大丈夫だよ。女子寮に帰え......」


プツン


「マ......マ............」



よくよく考えると色々と厄介だ


景はシャーペンをくるくる回しながら、数学よりもその事を考えていた



「景ちゃん、手が止まってるよ」

「むしろ動いてるけどな」

「結斗、ライ、この問題はまた明日。それよりも大きな問題を解決しなきゃ」


「は?」


景は後ろに座ってコーヒーをすすっているマナの方を向いた


「あの、先生、申し訳ないのですが、着替えを持ってませんか。出来ればラフな、寝れるような」


「持ってないわね。ここで着替えることもあまり無いもの」


マナは首を振る


「そうですか......ありがとうございます。......どうしよう、制服で寝ちゃおうかなぁ」


四人はしばしば色々と想像したのち

無言でまた宿題に取り掛かる



「景ちゃんは今日はあいてる部屋で寝るの?」

結斗が微笑んで首を傾げた


「うん、私も先生もそうするつもり。寮だからね。部屋だけはたくさんあるでしょう?」


「眠れなかったら、いつでもおいで」


「襲われんぞ」


「襲うだけじゃないよ、血もいただこうかな?」


「エロフェミニスト」


おきまりのライと爽馬の連携プレイと相変わらずな結斗に苦笑いしてから、景は四人から借りていた教科書を閉じた


「とりあえず、お風呂入りたい。ちょっといって来る」