「あ~あ。あたしが言うのもなんだけど、勿体ないことしたわね」


波屋有姫は嘲笑するような、そして嬉しそうな顔をしながら、私の手からタオルを取った。


「あ、うん……?どうだろう……」


16時45分

あれから学科授業を終えた女子生徒たちが、女子寮に続々と帰ってきている


雨は予報通りに強くなり
生徒たちの体を見事に濡らしていた



と、いうことで


私は女子寮の入り口でタオルを配っていたのだ



「まぁこうしてお手伝いしてるんだし、景ちゃんは本当に寮母の仕事が好きなんだろうね」

波屋有姫は濡れた足を拭きながら私にそう言った



「あ……うん。ずっと小さいころから手伝ってきたことだから……」

有姫に褒められて驚く私を見て、有姫は苦笑いをする


「だからってそれとこれとは別よ。あなたが寮母からはずされて嬉しいわ。私だったら何が何でもやめたりしないのに。ほんとバカね」


やはりこの人の二重人格は天下一品だ

私はそんなことを考えながら、小さいため息をついた


「まぁ、いろいろあるんだ」


「……何がいろいろあるんだ、よ。そんなのあるにきまってるじゃない」


「え」


「そのいろいろある世界であんたは一体何をしたの」


有姫は呆れたように言った


何って……それって校長に頼んだ、とかそういうこと?


私が考えていると、有姫はわかってるのかわかってないのか一人でしゃべり出した


「他人なんてそうそう変えられるわけないでしょう。あなた自身で何かをしないと何もうまくいかないわよ」


そう言ってタオルを片手に階段をあがっていく有姫を、私はただただ不思議に見つめていた


自分自身で……何かをする……?