気づけばキミと恋に落ちて

宗ちゃんの机の上にコトリとコーヒーカップを置けば、すぐさまゴツゴツとしたオトコらしい指で取っ手を掴んだ。


それを横目で見つつ、わたしは自分の席へと座り、ほんの少しだけ入れた珈琲を一口、口に含ませた。


口の中はブラックの、ほろ苦い味で広がる。


前までは、お砂糖やミルクを入れないと飲めなかった珈琲は、年齢を重ねたからだろうか。


〝ブラックがイイ〟と思うようになった。


三口くらいで飲める量の珈琲を、一〜二分で飲み干しカップをサッと洗うと、掃除用具箱に足を向けホウキとチリトリを出し、隅から隅まで掃き始めた。


「なぁ、はるちゃん」
「はい」


宗ちゃんの声がして、ソチラを向けば頬杖をついて、わたしを見ていた。


「それさ、ローテーションにしたらどう?」


前にも宗ちゃんに言われたことがある。


でもわたしは、それを断った。別にイジメにあってるわけじゃない。


「いえ、わたしがスキでやってることですから」


なんていうのは、ウソ。


掃除がスキなんじゃなくて、ただあの時間の電車に乗ると、例の彼に会えるから。


ーーただ、それだけの理由。