駅から降りて、歩いて五分。


電車に揺られるのも、十二〜三分だから通うのにも楽かな、と。


ただ単に、そんな理由だけで面接を受けた。


わたしの勤め先は、小さな会社。今の社長のお父様が、築き上げた。


社長とは三年間という、短いお付き合いだった。十年前に急死してしまったから…。


わたしを採用してくれたのも、お父様の方。笑う顔が柔らかくて、その瞬間〝ここで働きたい〟と思った。


当時今の社長は三十一歳で、ウチの会社の社員だった。それがお父様が亡くなり急遽、社長へ。


当時の忙しさは、ハンパじゃなかった気がする。社員十名のホントに小さな会社。


それが社長の急死で、挨拶回りやら色んなことをしなくてはならず、毎日がドタバタだった。


その中でも、やっぱり社長が一番大変だったと思う。息子っていう理由だけで社長になり、急に社員九人の生活を背負わなくてはならなくなったんだもの。