あー、そういうことか。陽美が泣いた意味が理解できたと、ともに怒りが湧いてくる。


「あの、そのオトコは…」
「あ、はい。きっとあのお客様がいると落ち着かないと思いまして、先ほど警察の方に来てもらいました。吉岡様には、いつもご利用いただいてますし、これからも安心してお泊りいただきたいので、上の者と話しまして、出入り禁止にしようと思っております」


それを聞いてホッとした。いつも、ってことは陽美はきっとこの旅館がスキで、よく来ているのだろう。


そのオトコが出禁になるなら、これからも気軽に利用できるだろうしな。


「そうですか。それを聞いて、安心しました。それなら陽美も、また行きたいと言うと思います」
「はい…ですが、この度は大変申し訳ありませんでした…」


オレも一応、接客業をしているからわかる。


べつに見て見ぬ振りをしたわけじゃない。


こんな広い旅館なんだ。全部が全部、見れるワケじゃない。


その中で、起きてしまったこと。


ただ、その場所で起きたことは、従業員が頭を下げなければいけない。


「いえ。陽美のこと、助けてくれたじゃないですか。そのスタッフの方がいなければ、陽美はもっと傷ついていました。だから、ありがとうございます」


オレが笑うと、安心したのか、やっと笑顔を見せてくれた。


軽く頭を下げ、エレベーターで六階へと上がる。


そして六百五号室の前に来ると、もう一度陽美に電話をかけた。