「はるちゃんが結婚して、オレの会社辞めちゃったらどうしよう」
「は?」


ちょうど信号が赤になり、ユックリと車が止まると宗ちゃんがコチラを見て悲しげな瞳で言ってきた。


「いや、だってさ。はるちゃんの美味しい珈琲飲めなくなるし、掃除だって誰がやる?見てたら、はるちゃんしかやってないだろ?」
「いや、だからそれは……」
「昼休み、トイレ掃除してるのだって、はるちゃんだけだろ?」
「あー…」


確かに、そうだ…。最初は交代制でやってたんだけどね、いつからだろう。


まあ、でも掃除は好きでもないけど、嫌いでもないからなぁ。


それにキレイになるのは、気持ちがイイし。


「やっぱりさ…」
「そ、宗ちゃん‼︎」
「えっ?」


信号が青になり、動き出した車の中で宗ちゃんの言葉を遮って大きめの声で名前を呼ぶと、宗ちゃんはビックリしながらも、目だけわたしを見た。


「は、花嫁修業ですよ‼︎」
「え?」
「だから、掃除なんて結婚したら、それなりにしなきゃいけないじゃないですかぁ。だから、その為の修行です‼︎」


勢い任せに喋ると、宗ちゃんは〝ククッ〟と喉の奥を鳴らすようにして笑った。